オススメ本「エイズとの闘い~世界を変えた人々の声~」
林 達雄 著 岩波ブックレットNo.654
ISBN4-00-009354-1 480円+税
ページを開くとまず2人の子どもの写真が目に入ってくる。
一人はブラジルに住み、一人は南アフリカに住み、どちらも2002年著者が訪ねたときには11歳だった。二人には親からHIVをもらったという共通点がある。そして、どちらも決して裕福な家庭に生まれた訳ではない。しかし、二人の今の境遇は大きく違っている。
ブラジルの女の子は、国から無料で薬がもらえるため発病しないで、未来に希望をもって生きている。一方アフリカの男の子は治療薬も与えられずホスピスで死を待っている。
AIDSは治療薬の進歩により、生き延びることができる病気になっている。しかし、薬の値段は高く、途上国に暮らす貧しい感染者の多くが治療を受けられないでいることは多くの人が知っていることだろう。そのことを知っていながら、それは仕方のないこと、あるいは自分自身の力ではどうしようもないことと、私たちは諦めてはいないだろうか。しかしこの本を読むとそれは決して仕方のないことでもなく、私たちの意識次第で解決可能な問題であることに気づく。
1995年に設立された世界貿易機関(WTO) は特許や知的所有権に関する法的な縛りを強化した。そのためAIDS治療薬はいつまでたっても値段が下がらない。そんな中、途上国におけるエイズ治療の先例を作ったのがブラジルだ。ブラジルは決して経済大国ではない。しかし、米国や製薬会社からの圧力に負けずに、薬の国産化をはかり、世界で一番治療薬の安い国にした。さらに税金を投入してAIDS治療薬を無料化を実現した。これは単にブラジルの政治家達が偉かったわけではない。感染者、NGO、市民グループ、学者、法律家、政治家、医療関係者など様々な立場の人達の協力と、多くの普通の人達の後押しがあったから可能だったこと。このブラジルのAIDS対策は、他の国々にも希望を与えるものとなった。しかし、アフリカをはじめとする途上国に住む人たちだけの力ではブラジルのような体制を確立することは難しい。日本のように世界的に経済力の大きい国が、どうこの問題に対応するかが事態に大きく影響を及ぼす。世界的なAIDS対策を正常なそしてさらにより良い方向へ変えていく上で、日本に住む私たちの意識が変わることが、如何に重要なことであるかを認識しなければいけない。
AIDSははいくつもの問題を私たちに投げかけてくる。健康上の問題だけではなく、人や社会がつくりだす否定や格差、そして社会や政策の有り様が病気をもつくりだすことがあること、人としてどう生きていくかということ等々・・・。
これから大人になる子どもたちにとってAIDS予防やPWA/Hとの共生が重要なことは間違いないが、それだけではダメなんだとこの本を読んでつくづく感じた。
今後のAIDS教育、さらには健康教育の視点を探る上で、ぜひ読んでおきたい一冊だ。






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